
ハムスターの“感じ方”をのぞいてみよう ~小さな体に宿るすごい五感~
こんにちは、ハート動物クリニック 豊橋小松病院です。
今回は、当院にもよく来院するハムスターについて、「この子たちに世界はどう見えて、どんなふうに感じているのか?」をテーマにご紹介します。 何気ないしぐさの背景にある“感覚のしくみ”を知ることで、もっと安心して暮らしてもらえるヒントになるかもしれません。
■ 頬袋(ほおぶくろ)って、何をしてる?
ハムスターの頬袋は、食べ物を一時的にしまったり、安全な場所へ運ぶために使われます。
「口の中から赤いものが出ている」というご相談をいただいた時、実は頬袋が外に飛び出していたということも。
これは**「頬袋脱」**と呼ばれる異常な状態で、自然には治らないため、できるだけ早めの受診をおすすめします。
■ 歯はずっと伸びる。そして色にも注目!
ハムスターの前歯(切歯)は一生伸び続ける性質を持っています。
そして、黄色〜オレンジ色をしているのが健康な状態です。これは、エナメル質に含まれる鉄分が原因とされています。
普段は木の枝やかじり木などを齧ることで自然に削れるため、健康であれば特別な処置は不要です。
しかし、うまく削れない環境や、事故・先天的な原因などにより歯が過剰に伸びてしまうことがあります。
このような状態は**「不正咬合(ふせいこうごう)」**と呼ばれ、
食べづらそうにしていたり、よだれが出たり、口元に違和感があるようなしぐさが見られた場合には注意が必要です。
放置すると、**食欲低下や口内の傷、膿瘍(うみ)**の原因になることもあります。
定期的なチェックと、異常があった場合は無理にご自分で処置せず、動物病院での安全な対応をおすすめします。
■ 匂いの世界に生きている
ハムスターは、においにとても敏感です。
飼育書などでは「人間の約40倍の嗅覚」と表現されることもありますが、遺伝子の観点からもその感度の高さが裏付けられています。
具体的には、「嗅覚受容体遺伝子」と呼ばれるにおいを感じ取るための遺伝子が、
人間では約400種類なのに対し、ハムスターなどの齧歯類では**約1000種類(約2.5~3倍)**存在するとされています(Zozulya et al., 2001/Niimura & Nei, 2003)。
そのため、香水や洗剤、柔軟剤などの香りがストレスになることもあります。
においの少ない、落ち着いた環境づくりが大切です。
■ あまり見えていないけれど…
ハムスターの視力は人間の1/100程度とされており、遠くのものや細かい色・形はあまりよく見えていません。
ただし、光を感じ取る「杆体細胞(ロッド細胞)」が網膜の約97%を占めており、明るさの変化にはとても敏感です(参考:夜行性哺乳類の網膜構成比)。
強い照明や急な明るさの変化はストレスの原因になるため、夜行性のリズムを意識した環境が理想的です。
(こっちみてる?)
■ 音とヒゲが“目の代わり”
ハムスターの耳はとても優秀で、人間には聞こえない高周波の音も感知できるほどです。
また、ヒゲの根元には神経が集中しており、何かにヒゲが触れることで、そのものの距離や形を正確に感じ取ることができます。
暗い場所でもぶつからずにスイスイ移動できるのは、このヒゲのおかげです。
■ 小さな違いが、暮らしを変えるヒントに
ハムスターはもともと、暗くて狭い巣穴で安全に暮らすために、視覚よりも嗅覚・聴覚・触覚を発達させて進化してきた動物です。
私たちにはわからない匂いや音に反応し、私たちとは違う“世界”を感じて生きています。
その違いを知ることで、「どうすればもっと快適に過ごせるか?」を考えるきっかけになります。 ほんの少し見方を変えるだけで、毎日の生活がもっと優しく、もっと楽しくなるかもしれません。
当院ではハムスターをはじめ、鳥類・ウサギ・モルモットなど小さな動物の診療に力を入れています。
ちょっとしたご不安でも、お気軽にご相談ください。